失踪日記の本質

この本を読んで一番考えさせられたのは、

自分の人生を客観視するということです。

私は今、自分を客観的するトレーニングをしていますが、いまいちマスターできずにいます。

ですがこの漫画に出会い、客観視とはこういうことかと稲妻に打たれたような衝撃を受けました。

著者は漫画家なのでそういったスキルに長けているのかもしれませんが、自分が自殺したことをこんなタッチで描けるでしょうか。

自殺未遂に留まらず、ゴミ箱をあさり、もはや食べ物とは言えないカビだらけの食べ物を工夫して食す、そして体を壊しのたうち回り、凍死寸前の生活…最終的にアル中の幻覚もコミカルに描かれていますが、本人が実際どれくらい辛かったかを想像するだけで心が持っていかれてしまいます。

それをこんな風に作品として書き上げてしまうというのは、まさに客観視の極意を見せて頂いた気分です。

もう一つ、この本から人間の生命力を見せつけられた気がします。

死のうとしてもなかなか死ぬことができない点もそうですが、未遂のあとの行動は生命力以外の何物でもありません。

死なないために、生きるために、勝手に考えて行動でき余程のことがない限り死なないのだとわかりました。死なないどころか、

意外と人との関わりがあるもので、そこからご縁があったりして生きる世界も変わっていく、そしてまた人間らしい世界にも戻ることもできるのです。

ということは、死を選ぶ人は、人間のその生命力の可能性を知らないから、“自分はもう死ぬしかない”という考えしかなくなると想像しました。

なぜなら、死ねない、という選択肢があれば、著者のように嫌でも“生”を求め、その時点で“生きるための方法”を探し始めてしまうからです。

浮浪者になるくらいなら死んだ方が良い、ですとか、生きていることが迷惑だから死んだ方が良いといったその人なりのプライドや価値観で自分を追い込み、自分で自分の可能性を消してしまっているのだと想像しました。

自殺者が増えると言われているこのご時世に、自殺を減らすためにも、全員が読んだ方が良いのではと感じています。

それから、ご縁は自らの意志と行動で導かれる、ということも著者の経験を通してわかるので、

生きてさえいれば、食べ物を求めて街に出て人と関わることもあり、著者のようにそれがご縁で未来が変わるかもしれないのです。どんなに辛くてもなんとかなると勇気を与えてもらえます。

著者の場合は、経済的理由ではなく精神的理由による失踪、自殺未遂、浮浪者生活、鬱、アル中という経験をされていますが、

ブラックな業界の中で追い込まれるうちに精神が崩壊し、顕在意識では認識できずとも潜在意識でbreakthroughを求めていたのではと考えました。

漫画家7つ道具を工夫して調理したり、わざわざいかなくてもいいような場所まで行ってみたり、

崩壊した精神は、無意識に精神的な救いを求めていたのではないでしょうか。

なぜなら、一般的にはあり得ないような過酷な生活の中でも著者は本当に小さなことでも楽しみを見出しているからです。

また、配管工として働いていても、浮浪者としても漫画を描くことは辞めていないし、最終的には漫画として返り咲いているからです。

それにしてもアル中というのは、一度なったらほぼ元に戻ることは不可能と言われる中できちんと禁酒し漫画家生活に戻れたというは本当にすごいことなので、著者の精神力の強靭さに感心してしまいます。

まとめ:

元々すごい精神力の持ち主が、エグすぎるブラックの漫画業界でメンタルをやられ、精神の旅に出て、すごい土産を持って帰ってきた。

コミカルに描かれていますが、そんな本質が隠れているノンフィクションです。